top of page
  • 執筆者の写真

【レビュー】For Your Own Special Sweetheart (1994) / JAWBOX

更新日:2021年12月5日

■作品

アーティスト:JAWBOX

作品:For Your Own Special Sweetheart (1994)

リリースレーベル:TAG Recordings by Atlantic Records / DeSoto(再発版)


 

 泣く子も黙るポスト・ハードコアの伝説、JAWBOX の 3rd Album であり、メジャー移籍第1段の作品。この作品のリリース年である1994年とは、メジャーレーベルが"第2のNIRVANA"を求め、目星の付きそうなアングラ界隈のバンド達に次々と声を掛け、引き抜き戦争が始まっていた時代でもあった。彼らもその中の1つであり、 Dischord Records から離れ、大手メジャー Atlantic Records 系列のオルタナ系専門レーベルとして立ち上げられた TAG Recordings から、この作品をリリースをしたのだ。


 リリース当時、MTVに出演を果たし、至極の名曲「Savory」を披露している事は、ファンだったらご存知かもしれない。しかし、この頃の Atlantic 系列のプロモーション戦力は、ゲフィンや、Interscopeといった競合メジャーレーベルに遠く及ばず、結果として、1990年代中盤に Atlantic 系列からデビューしたバンド達は、尽く失敗しているのが目につく。そして残念ながら、JAWBOX のこの作品も、その1つになってしまった。(記憶が定かではないけど、とある映画での J.Robbins のインタビューで、確か、4万枚のセールスに留まったと聞いた記憶がある。確か映画は、「SALADA DAYS」だった気がする。DVDは持ってるんで後で見てみます。間違えてたらしれっと直しときます)


 とは言え、この作品の評価自体は、凄まじいもので、数々の批評家からは好評を博している。(大手音楽批評サイト All Music で中々お目にかかれない 4.5点を叩き出しており、オルタナティブプレスやピッチフォークといった大手メディアからも、ジャンルを問わない90年代ベストアルバムの上位にランクインしている程だ) ただ一部ファンからは、「もうハードコアじゃなくて、オルタナじゃね?」といった意見や、「前作よりも録音環境悪くて草」などの音質面の批評を、稀によく伺う事がある(矛盾)。私的には、このオルタナ成分と録音環境の悪さが相まって生まれた意図的なノイジーさこそが、このアルバムの魅力と考えているのだが。(録音面で言うと、J.Robbins は、このアルバムで、意図的にピーキーな金属音のようなサウンドを出すフェンダーメキシコ製のテレキャスを使用していると、インタビューで語っている。また、それを最大限の魅力として引き出した Fugazi 作品のプロデューサー/エンジニアとして知られている Ted Niceley の功績も大きいだろう)


 このアルバムを一言で表すとするならば、「知性と緊張感の共存」とでも言うべきか。先の意図的なノイジーさと、竿物陣の不気味かつフックの効いたメロディアスなワーク、オリジンハードコアの速さから解脱したミドルテンポとサウンドの緩急、そして、J.Robbins 渋さ全開のボーカルセンス……これらの要素がぶつかり合い、かつ、均衡を保っている事により、Fugazi とは異なる緻密に計算されたスリリングなハードコアを展開しているのだ。これぞ、"ポスト・ハードコア"と言わずして、なんと言うべきか。何故、90年代ハードコアを語る際、この作品の名前があまり挙がらないのか、私は甚だ疑問である。90年代ハードコア史において、これ程までに完成されたポスト・ハードコアの存在が、無視されるなんて事はあってはならない。JAWBOX ファン然り、USハードコアファンだからこそ、そう思わざるを得ないのだ。

 

 このアルバムには、名曲が幾つもある。ヘヴィ・ロック界のレディオヘッドの異名を持つ Deftones も愛した「Savory」、疾走感だけに終わらない癖ありありのロックチューン「Breath」、不穏な妖艶さを醸し出しながらもミドルテンポで押し通す「Motorist」、ノイジーなギターリフから始まり、後半にカタルシスをも感じるドラマ的構成を展開する「Reel」……これら以外にも、JAWBOX の手によって、従来のハードコアでは到底到達できない計算された楽曲達が、この作品で繰り広げられている。ここから、ギターロックとしての複雑かつメロディアスなバンドサウンドが、後のポスト・ハードコアやEMOに影響を与えていくと思うと、やはり、ハードコアを語る上では、無視してはいけない作品だと改めて痛感する。

 

 個人的には優劣を付けたくないのだが、「もし無人島に持っていける JAWBOX の作品が1枚しかなかったら何を選びますか?」と言われたら、間違いなく私は、この For Your Own Special Sweetheart を選ぶだろう。思い入れで言うと、JAWBOX で一番リピートしている作品でもあり、1994年というロックシーンの転換期(ポップ・パンク、EMO等の登場)においても、間違いなくベスト5に入る作品だと思っている。今の00年代、10年代ハードコアリスナーが聞くと、中々渋い作品ではあると思うが、このアルバムを好きになれるかによって、EMOや90年代ポスト・ハードコアの魅力を知れるという登竜門みたいな所もある。これをベンチマークとして、魅力を知っていただければ、もしかしたら、貴方の好きな音楽ジャンルが更に広がるかもしれない……


 と、無理やり締めてみる(白目)

 

■個人的に好きな曲

・Motorist(4曲目収録)

 元々 Dischord Records からシングルでリリースされており、この作品では再収録版となっている。怪しさと力強さを備えたギターリフと共に、ミドルテンポでグイグイ押す展開が、正にCOOL。


・Chicago Piano (10曲目収録)

 個人的に好きなギターロックチューン。特にサウンドの緩急などなく、疾走感がありながらも、J.Robbinsらの竿物陣のクセのある嫌でも頭に残りそうなギターリフから、彼らのメロディセンスの底力がわかる。


・Reel (11曲目収録)

 このアルバムの中でも、Savory の影に埋もれてしまい、過小評価されている印象の強い曲。JAWBOX の中でも聞きやすい部類で、イントロのジャキッとしたノイジーなギターリフから始まり、サビで開けたようにメロディアスな展開を見せることで、カタルシスを感じる構成となっている。最初の16分ハットとタムを絡めたドラムフレーズが個人的にはツボ。


 

YouTubeチャンネル「妹は音楽について語りたい」


Twitter @LalapaloozaS

閲覧数:97回0件のコメント

最新記事

すべて表示
記事: Blog2_Post

問い合わせ

フォロー

  • Twitter
  • YouTube

©2021 by 妹の音楽語りブログ。Wix.com で作成されました。

bottom of page