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【レビュー】30 Degrees Everywhere(1996) / The Promise Ring

■作品

アーティスト:The Promise Ring

作品:30 Degrees Everywhere(1996)

リリースレーベル:Jade Tree

 

 ガチャガチャしたリズム隊、中途半端なローファイサウンドを纏ったどこか浮足立ったサウンド、ポップなのに「キャッチーではなくね?」と疑問に思ってしまうような捻くれたメロディ、芯の無い Davey の青臭い歌、そこから綴られる日常生活のワンシーン……

 「それってかっこいいの?」と声が上がりそうな要素ばかりだが、その独特な要素達で構成された世界観は、EMO、インディー・ポップという言葉だけでは語れない90's ロック史の中でも、今なお、カルト的な人気を博している。そんな唯一無二のサウンドを奏でるバンド――それが、The Promise Ring だと思っている。


 90's EMOを語る上では、避けて通れないバンドの1つであり、その中でも一際異彩を放つ存在である彼らは、90's EMOシーンの立役者である caP'n Jazz の Davey von Bohlen(Vo./Gt.) が中心となり、ミルウォーキーという比較的小さめのシーンの中で、結成されたというのは、EMOリスナーだったら周知の事実であろう。


 この作品は、全体的に、90's ミッドウエストEMO感が強めで、caP'n Jazz を匂わすようなサウンドの緩急が色濃い作品となっている。サウンドのミキシング自体も、歌が前面に出てきてる訳でもなく、楽曲によっては、楽器陣の奥で歌っているような、従来のポップ・ロックソングではあり得ない"サウンドのアンバランスさ"が際立っている。しかし、それを魅力として体現しているのが、The Promise Ring の本領だとも言える。このアンバランスこそが、"青臭さ"を彷彿とさせるサウンドを強調する一因になっているのではないか? DIY並の荒削り感と、90's EMO に通ずる緩急の中に、独特のポップなメロディが相まり、彼らの中で昇華された結果、聞き手としては、青臭さや青少年期特有の不安定さを彷彿とさせる仕上がりになっているように思える。Davey自身、East Bay PunkやD.C.HC、NYHCシーンに留まらず、他のポピュラー音楽が好きな事も相まって、そのような特徴となって出ているのも考慮すべき点であろう。ニッチなアングラシーンに身を置きつつも、Duran Duran、The Smithsといったアングラ界隈から見たら大衆系ロックとも言える音楽に影響された結果、彼らの独特なポップさが表れているとも、言えるかも知れない。(Daveyの兄が、メタル系やクロスオーバー・スラッシュ系バンドを好んでいたという話もあるが、それは影響下に無かったのだろうと、彼らの作品を聴いて、想像を膨らませる事もできなくはない)


 そんな独特な世界観が最も強調されているアルバムこそ、この30 Degrees Everywhereである。以降の作品(The Horse Latitudes, Nothing Feels Good, Very Emergency, Wood/Water)で、サウンドとポップさが洗練されていく事を考えると、彼らの作品の中でも、90年代ポスト・ハードコア的観点、ミッドウエストEMO的観点から見て、1番"エモい"音楽に親しい作品なのではないだろうかと、思わざるを得ない仕上がりになっている。


 インディー・ポップとして、EMOとして、彼らの作品の中でも一際癖の強いこの作品は、初見だったら、人を選ぶかも知れない。しかし、それは逆に、彼らの魅力がわかりやすくダイレクトに伝わる作品でもあると捉えている。The Promise Ringというバンドの持っている"癖"が、限りなくピュアな状態でサウンドとなり、充分とは言えない録音・MIX環境等の外的要因も相まって、彼らの"青臭さ"として表現されているのだから。


 The Promise Ring の魅力を知っているファンの間で、名盤として謳われるのも、それが1つの理由なのではないだろうか。

 

■個人的に好きな曲

・Red Paint (2曲目収録)

軽快さと小気味良さを感じるリズム隊に不安定なDaveyの歌を乗せて入り、サビでバンドサウンドをかき鳴らすというサウンドの緩急に、パンクの下地を感じつつも、どことなく90's ミッドウエストEMO特有のサウンド展開を彷彿とさせる。3分という曲の短さの中で、疾走感を保ちながら、ダイナミクスにマンネリを感じさせない作りとなっており、ポップさを兼ね備えながら、どことなくcaP'n Jazzに通ずる曲展開を醸し出している。


・Scenes from France (4曲目収録)

このアルバムの中でも、90's ミッドウエストEMO要素が強いミドルチューン。少しだけ乾いたメロウなサウンドを聴かせたり、全体的に荒い演奏をしたり、といった展開を繰り返し、歌というよりかは、バンドサウンドの緩急を重点に置いたイメージが強い。力んだドラム特有の、カナモノだけ力強く叩いて、バスが踏めていないようなガチャガチャ感が、逆にこの緩急を助長しているようにも思える。(このアルバム作品、全体的に言える事だが)


・A Picture Postcard (8曲目収録)

「例え貴女が私から離れたとしても、あの頃キスした思い出は忘れないで」

出だしの歌詞からどてらエモ過ぎて草な楽曲。ハーモニクスと少しグルービーなリズム隊から入り、静かな曲調から全パート感情の入ったかき鳴らすようなサビ、そして締めはまたハーモニクスを奏で、少しの切なさを残して終わる。どことなく初期The Get Up Kidsを匂わせるような曲。


 

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