【レビュー】Novelty (1992) / JAWBOX
- 妹
- 2021年11月28日
- 読了時間: 5分
更新日:2021年12月4日
■作品
アーティスト:JAWBOX
作品:Novelty (1992)
リリースレーベル:Dischord Records

泣く子も黙るポスト・ハードコアの伝説、JAWBOX の 2nd Album。ワシントンD.C.ハードコアシーンに JAWBOX という名を刻んだ、90年代初頭ポスト・ハードコアを語る上で絶対に無視してはいけない作品の1つである。ハードコアにギターロック要素を含んだ 1st から更に洗練され、J.Robbins(Vo.&Gt.) のメロディセンスが如実に頭角を現し、JAWBOX にしかできないハードコアを体現したこの作品は、ワシントンD.C.ハードコアキッズも然り、ポスト・ハードコアファンの中でも、カルト的な人気を博している。正にそれこそが、"ポスト・ハードコアの伝説"と呼ばれる1つの理由なのであろう。
80年代後半から、Dischord Records を中心に、それまでの暴力的なハードコアとは異なる、より純真に音楽性を高めるための挑戦的なハードコアが出現し始めた。(所謂ポスト・ハードコア) 80年代後半に多く見られたそれらは、あくまで"実験的"で"先鋭的"なハードコアが多かったという事については、彼らの1st Album の Grippe 作品紹介で、かんたんに述べさせて頂いた。90年代初頭には、Fugazi のインディーシーン台頭により、俗に言う"オルタナティブ・ロック"という、これまでの商業音楽に替わるDIY精神を持ったロックが、世間の一般リスナー達を騒がせた。それ以降、彼らに影響されたバンド達が、大躍進を遂げ続け、90年代音楽シーンは、グランジ・ポップパンク・EMO等のアングラから発祥した音楽が、世間で脚光を浴びるというのは、ハードコアリスナーであれば、周知の事実であろう。
Fugazi が、アバンギャルド性とメッセージ性を持ったポスト・ハードコアと認識されるなら、JAWBOX は、純真にサウンドとしての音楽性を高めたポスト・ハードコアと呼べるだろう。そしてこの作品こそ、JAWBOX の音楽性が完成した記念すべき1枚なのだ。1st Album の Grippe は、JAWBOX の中でも一際荒削りな作品だった。J.Robbins の歌い方が、メロディ重視に歌い上げようとしており、その結果、バックがどっしりしたハードコアサウンドだからこそ、ボーカルが不自然に浮いてしまっている印象もあった。そのため、J.Robbins がかつて所属していた 後期 Goverment Issue のメロディ路線が中途半端な形で残ってしまい、それが原因か、音楽的に未完成な印象が一際強かった。しかし、この作品の1曲目 CutOff を聞いて貰えば、すぐにわかるはず。「彼らの音楽性――彼らのハードコアが完成した」というのが。
1st Album との決定的な違いは、歌メロが取捨選択され、それが今日まで語られる J.Robbins 及び JAWBOX の COOL さとして表れている事だと、私は考えている。CutOff を始めとしたこのアルバムの曲達は、巷の音楽とは異なり、歌を潔く捨てて、バンドサウンドで勝負しに来るスタンスを持つものが多い。CutOff なんか、サビがコーラスとギターリフだけで成り立っている曲であり、漢であれば、そのストレートな潔さに八木に電流が走るが如く痺れるはずだ。それに取捨選択という潔さだけではなく、ミドルテンポで押し進みながら、コーラスを交えているというところも、JAWBOX の歌の進化を垣間見るポイントの1つでもあり、バンドサウンドで直球勝負しにきつつも、それまでのハードコアになかったインティリジェンスさを感じさせる。これらのように、曲中で長々と歌い上げるのではなく、ここぞという時にボーカルを押し出しつつも、冗長な部分は思い切って歌わずに、バンドサウンドで聞かせに来るという、中々誰もが真似できない COOL な音楽を、彼らはやってのけているのだ。もちろん歌だけではなく、ギターリフやその他サウンドも、前作よりも更に洗練されている。皆大好き Dreamless の不気味さを孕みつつも耳にこびり付くようなリフや、皆大好き Static のギターロックとして完成されたミドルチューン等、この作品の楽曲たちを聞く度、彼らが如何に当時のハードコアから進化したているかを痛感する程でもある。個人的には、この作品は、90年代初頭ハードコアのマスターピース的存在であり、アバンギャルド性とメッセージ性の Fugazi と対を成す"音楽性を高めたポスト・ハードコア"として、ハードコア史留まらず、ギターロックの歴史の中でも、無視してはいけない作品だと考えている。
別件だが、この作品を始めとした JAWBOX の魅力に気付くのは、20代の大人になってからの人が多く、何故か、10代のうちに聞いても、「なにこれ???」と思う人が多いらしい。(Fugazi も同じような現象があるらしい) 私自身、JAWBOX の出会いは、高校生の頃で、当時、Dischord Records のレジェンド達を後追いで聴き漁っていた頃だったため、上記に該当はしないのだが、確かに、USハードコアの下地が無いと、中々どうして渋い作品でもあるし、バンドを経験していないとその凄さに気付け無い部分もある。このギャップを如何にして埋めるか……JAWBOX のファンであり、底辺 Youtuber の私としては、今後、これをどう動画に出すかが課題である。バンドを動画で紹介する時、知らない視聴者様に、どう魅力をお伝えするか、絶対いつも悩むのだが、今後、JAWBOXを紹介する事を考えると 、本当にどう解説したらいいか、難題すぎて、私の現時点の最大の悩みとなっている。はぁ……どうしたものか……
ちなみに私は、JKです(白目)
■個人的に好きな曲
・CutOff (1曲目収録)
JAWBOX 入門に最適な1曲。上記で記載しているため、あまり多くは語らないが、イントロのパワーコード → サビのコーラス&ギターリフ → ギターソロ → サビのコーラス&ギターリフ というバンドサウンド重視の潔いCOOLな曲展開に痺れたら、貴方は JAWBOX を絶対に好きになれるはず。
・Tracking (2曲目収録)
インテリジェンスとハードコアの疾走感を兼ね備えた至極のギターロック名曲。3拍子を基調にしつつも、疾走感は損なわず、最後に4ビートで駆け抜ける展開は、卑怯すぎる。
・Static (8曲目収録)
みんな大好きJAWBOXのスーパーミドルチューン。イントロの泣けるギターリフから、メロディアスなバンドサウンド、ミドルテンポでグイグイと力強くサウンドを押し進める点等、今までの速さと粗さを重視したハードコアと一線を画すものである事がわかるはず。これこそ、音楽的に洗練されたハードコアと言えるのではないだろうか。
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