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【レビュー】The Age of Octeen(1996) / Braid

更新日:2022年5月11日

■作品

アーティスト:Braid

作品:The Age of Octeen(1996)

リリースレーベル:Mud Records

 

 EMOリスナーの中で、何故か全然語られない印象のある Braid の2nd Album。(様々な批評家の間でも、過小評価されていると言われているらしい。最近知ったが) ジャケットの観点からも、American Football より、いち早く”家ジャケ”を取り入れている点(家の写真よりも黄色部分が占めてる?それは君の目の錯覚だよ!)だけでも、評価に値するのに、話題に上がらないのは、やはり、次回作の Frame&Canvas の影に埋もれてしまっているからだろう。確かに Frame&Canvas と比較すると、キャッチーさは薄く、将又、複雑な展開は共通しているにしろ、その後にカタルシスを感じるような幾何学的で計算された構成要素は、あまり見られないかもしれない。


 しかし、この作品を聞いてみれば、この時点で Braid というバンドは、90’s ポスト・ハードコア/EMOの中でも、完成されている領域に達しているというのは、想像に難くないはずだ。1st Album の Frankie Welfare Boy Age Five の、カオスを感じる目まぐるしい曲展開のみならず、一部でピアノ、ブラス等の楽器さえも取り入れた極めて異彩なハードコアは、Drive Like Jehu も真っ青になる程の独創性に満ち溢れ、90年代ポスト・ハードコアの中でも一種のアートに近い部類だ。しかし、アートはアートであって、芸術性が高いからと言って、それが第3者から音楽的に評価されるとなると別の問題とも思われる。(芸術性が高いと言えど、裏を返せばそれは、自己満足に近しい評価にもなり得るからだ。個人的には、1st Album 超好きだけど)そんな自分達のやりたい事だけを詰め込んだような 1st Album から、この The Age of Octeen に至り、彼らの音楽性から、顕著なカオスさが除かれた。ここで大切なのは、あくまで全てが取り除かれたのではなく、”顕著なカオス”という事だ。


 つまり、Braid の持ち味である複雑な曲展開から繰り出される”カオスさ”と、ギターロックとしての”キャッチーさ”両方を、芸術的ではなく、音楽的に味わえるレベルまで体現したスタイルが、この 2nd Album で既に完成されているのだ。”キャッチーさ”という言葉を聴いて、疑問に思うかもしれないが、Braid のVo.&Guitar. である Bob Nanna 自体、この時代よりも前に、ポップ・パンクに近い系統のバンドでプレイしていた実績もある。(Friction というバンドを聴いて欲しい。Braid 解散後に結成された Hey Mercedes で、メロディ特化のバンドをプレイし始めたと誤解している人が多い。Hey Mercedes どてらスコスコ)


 そういったバックグラウンドを加味すると、この The Age of Octeen で、”顕著なカオスさ”を削ぎ、元から培っていた”キャッチーさ”を、ギターリフや歌メロにも取り入れた事で、Braid のこの音楽性が確立されたと、私は思っている。そして、2nd と 3rd の違いは、その比率が異なっているだけであり、2nd は”カオスさ”、3rd は”キャッチーさ”に寄っているだけで、Braid の音楽性自体は、実質的に2ndの3rdの間に差は無いと思うのだ。(90’s ポスト・ハードコア/EMOを知らない方にとっては、3rd も”カオスさ”満点じゃねぇかブチ〇すぞと感じるだろうが、それはツッコミなしでお願い)


 最後期の No Coast は、”カオスさ”はすっかり存在を消してしまうが、Braid 独自の乾いたサウンドで奏でる”キャッチーさ”は、やはり、2nd から引き継がれているものとも言える。Braid にしか体現できない良質なメロディを備えたギターロック成分は、この 2nd から既に姿を見せており、以後の作品では、最初期からの”カオスさ”と 2nd で頭角を現した”キャッチーさ”の比率が異なるだけで、本質は変わっていないのだ。


 Braid の魅力は、”カオスさ”と”キャッチーさ”それ自体と、その比率こそにあると思う。”カオスさ”の比率が多いからこそ、”キャッチーさ”が見えた時には、一縷の尊ささえをも感じる――そんな 3rd とは異なる黄金比を持つ The Age of Octeen が、日の目を浴びる事を夢想して止まない。


 ここまで「うわ~ん!過小評価されすぎじゃろぉ!ママぁ!」的な体で、語ってきている訳だが、2010年代に Polyvinyl Records から再発されている事もあり、実際一部からは、ちゃんと評価はされているようで、幾ばくか安心した。今夜は安心して枕を高くして眠れそうだ。



 ちなみに私は、再発組である(白目)


 

■個人的に好きな曲

・My Baby Smokes (1曲目収録)

跳ねた癖っけあるビートから始まり、Braid 特有の乾いたギターサウンドでメロウさを惹き立てる。Bob のヒネたメロディとシャウトが入り交じったと思ったら、いつの間にか曲が終わりに向かい、中途半端なキャッチーさとユーモアさを匂わせながらも、名残惜しさを感じさせる。そんな Braid 節をこれぞと言わんばかりに見せつけてくるオープニングチューン。その意図的にも感じる物足りなさが、2曲目 Nineteen 75 を更に引き立たせているようにも感じる。


・Divers (3曲目収録)

個人的には、3rd Album:Frame&Canvas の A Dozen Roses と双璧を成す キラーチューン。怪しげなイントロから、メリハリあるサウンドの緩急を展開し、最後には、サウンドかき鳴らしで終焉に向かう。楽曲の序盤で、様々な要素を詰め込んで、複雑さをひとしきり聴かせた後、最後に聴き手にわかりやすい大サビ的展開を持ってくるという、Braid お得意のカタルシス構成は、この時点で完成の域まで達していると思わせてくれる曲だ。


・Eulalia, Eulalia (6曲目収録)

 No Coast 臭ぷんぷんなブラスから、Braid の乾いたメロウサウンドが輝くミドルチューン。3rd Album 以降にあってもおかしくない曲調で、このアルバムの中でも、"キャッチーさ"が濃い。とは言え、楽曲展開は、目まぐるしさを保っており、Braid の"カオスさ"と"キャッチーさ"が、見事に両立されている。Summer Vacation で訪れた西海岸で夕日を眺めながらイントロ部分だけリピートして聴きたい。ジ~ロ~


 

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